本書は、ガバメントクラウド利用におけるコストの予実管理や、OCIが推奨するコスト最適化を理解するための文書である。なお、予実管理は一部PJMOが実施する作業も含む点に留意すること。 ## クラウド利用料の予実管理と最適化の全体像本書では主に次の項目を説明する。 - クラウド利用料に対する予算設定と利用実績を確認する「予実管理」 - 運用状況を鑑みてコストを継続的に改善する「コストの最適化」「予実管理」では、デジタル庁が連携する予算額をもとにOCI Budgetsで予算を設定し、月次で実績を確認することで予実管理を実現する。「コストの最適化」では、代表的なOCIサービスに対してコスト最適化基準と必要となる対策を定義し、適用することでコストを最適化する。 ## ガバメントクラウドにおける予実管理ガバメントクラウドが推奨する予実管理について、基本方針と具体的な予実管理方法を説明する。 ### 予実管理の基本方針デジタル庁より各府省PJMOに連携された予算額（日本円）を当該年度予算としてOCI Budgetsに設定する。各府省PJMOは、月次でのクラウド利用料実績を確認して予実管理を行う。実績値は各府省PMOに対し連携する。 ### 予実管理方法 #### 予算の設定デジタル庁より各府省PJMOに連携された予算額（日本円）を事業者に連携し、事業者は[公式ドキュメント](https://docs.oracle.com/ja-jp/iaas/Content/Billing/Concepts/budgetsoverview.htm)を参照して予算設定を行う。予算設定は、月単位での設定を必須とし、四半期単位や年単位等での設定は任意とする。デジタル庁より連携される予算額は年度予算となるため、当該年度における利用月数で除算することで月次予算とする。例. 7月にテナンシが払い出された場合、翌年3月までのシステム利用期間が9か月となるため予算を9で割った値を月次の予算とする。予算設定する際の留意点として、利用システム内に複数のOCIテナンシを持つ場合、テナンシ別に予算の設定が必要となる。そのため、各利用システムの判断でクラウド利用料割合を検討し、各OCIテナンシで検討した割合に基づく予算設定を行う。予算設定と合わせて、月次で予算を実績が超過したことや年額予算を予測実績が超過することなどを検知するアラートの設定を推奨する。なお、閾値は利用システム側の判断とする。アラートの設定は[公式ドキュメント](https://docs.oracle.com/ja-jp/iaas/Content/Billing/Concepts/budgetsoverview.htm)を参照すること。 [OCIドキュメント:予算の管理] https://docs.oracle.com/ja-jp/iaas/Content/Billing/Tasks/managingbudgets.htm [OCIドキュメント:予算アラート・ルールの管理] https://docs.oracle.com/ja-jp/iaas/Content/Billing/Tasks/managingalertrules.htm #### 実績の確認各府省PJMOは、以下の手順を参考に月次で予算に対する実績を確認する。 1. OCI Consoleへログインする。次に画面上部でリージョンを「Japan East（Tokyo）」に設定する。OCI BudgetsやOCI Cost Analysisを使用するときは、使用しているリージョンとは関係なく、ホームリージョンの「Japan East（Tokyo）」に設定することで、すべてのリージョンのコスト情報を表示できる。 ![図01:実績の確認手順1](/images/oci_cost-optimization-01.jpg) **図01：実績の確認手順1** 2. ナビゲーション・メニューから、「請求とコスト管理」を選択し、続けて「予算」を選択する。 ![図02:実績の確認手順2](/images/oci_cost-optimization-02.jpg) **図02：実績の確認手順2** 3. 作成した予算のリストが表示される。該当のリストに表示されている、金額（予算に設定した金額）、支出（使用金額）、期間内の%支出（支出/金額*100）、予測（このまま推移したときの予測金額）を確認する。 ![図03:実績の確認手順3](/images/oci_cost-optimization-03.jpg) **図03：実績の確認手順3** なお、正しい使用料金が反映されるまでに最大24時間の遅延が発生する可能性がある。そのため、確認対象月の実績は翌月の2日以降に確認することを推奨する。得られた実績値を府省内のルールに従い各府省PMOに連携する。実績が予算と比較して超過している場合には、後述しているコスト管理運用に従い、対応することで年間を通じて予算額の範囲内に収まるよう調整する。 [OCIドキュメント:予算の概要] https://docs.oracle.com/ja-jp/iaas/Content/Billing/Concepts/budgetsoverview.htm [OCIドキュメント:コスト・トラッキング・タグの使用] https://docs.oracle.com/ja-jp/iaas/Content/Tagging/Tasks/usingcosttrackingtags.htm ## ガバメントクラウドにおけるコスト管理運用ガバメントクラウドが推奨する定常的に実施すべきコスト管理運用について、基本方針と具体的なコスト管理運用のフローを説明する。 ### コスト管理運用の基本方針「定常的なコスト管理運用フロー」に従い、月次でコストを最適化する。また、本運用はコスト最適化として、変化する運用状況を鑑みたコストの継続的な改善を目的としている。そのため、設定した予算よりコスト実績が下回っているかとは関係なく、月次での実施を推奨する。管理工数削減・リアルタイム性の観点より運用報告などの形式で資料を別途作成することは極力せず、分析を含めダッシュボード化することを推奨する。 #### Management Dashboard（管理ダッシュボード） - アプリケーションやその他の監視対象リソースからデータを収集し、ウィジェットに表示するためのデータ視覚化ツールである。 - リソースの健全性監視やパフォーマンスインサイトの提供を行い、潜在的な問題の特定をサポートする。 [OCIドキュメント：管理ダッシュボードについて] https://docs.oracle.com/ja-jp/iaas/management-dashboard/doc/management-dashboard.html ### 定常的なコスト管理運用フローガバメントクラウドが推奨する定常的なコスト管理運用フローとして、月次で「可視化」「分析」「コストの最適化」の順に実施する。月次の基本フローとしては、OCI Cost Analysisにより選定したサービスに対して、表01におけるコスト最適化基準の確認および対策を実施するが、半期に一度、利用システムで利用する全てサービスに対してコストの最適化基準の確認および対策の実施を推奨する。なお、予算アラートにより費用実績の予算超過を検知した場合等は、利用システム側でアラートを踏まえてコストの最適化を実施する必要性を判断の上、任意のタイミングでコストの最適化を実施する。詳細は、GCASアカウントを取得の上、GCASガイド（メンバー専用ページ）で公開されているドキュメントを参照すること。 ![図04:コスト管理運用フロー](/images/oci_cost-optimization-04.jpg) **図04：コスト管理運用フロー** コスト管理運用フローの詳細は以下のとおりである。 #### 可視化 OCI Cost Analysisでは、使いやすいビジュアライゼーション・ツールが提供されている。コスト分析のコンソールで、デフォルトとして「サービス別コスト」レポートが表示される。特定のタグ、コンパートメント、サービスなどでフィルタ処理し、それをどのようにグループ化するかを選択する。その結果、チャートおよび対応するデータ表が生成され、データ表としてダウンロードすることもできる。また、日付、フィルタおよびグループ化ディメンションのカスタム・セットを保存済レポートに保存することもできる。詳細は以下を参照のこと。 [OCIドキュメント：コスト分析の概要] https://docs.oracle.com/ja-jp/iaas/Content/Billing/Concepts/costanalysisoverview.htm [OCIドキュメント:コストレポート統合] 親テナンシと子テナンシでは利用できるコスト管理機能の違いがある。 https://docs.oracle.com/ja-jp/iaas/Content/General/Concepts/organization_management_overview.htm#organization_management_cost_reporting [OCIドキュメント:コストの予測] コスト分析では実績値の取得できていない期間の値はコスト予測の機能で補完される。 https://docs.oracle.com/ja-jp/iaas/Content/Billing/Concepts/costanalysisoverview.htm#forecasting_costs **OCI Cost Analysisにおける時間単位の出力** 利用料確認での粒度の基本は「日」単位である。「時間」単位で取得するときは次の条件を満たす必要がある。 * 日付の範囲は1日であること（開始日と終了日が同一であること） * 指定する日付は現在から31日以内であることそのため、複数日数の範囲での集計が必要な場合は、1日単位で取得したデータを手動で集計する必要がある。また、31日より古いデータは参照できないので、期限を過ぎる前に定期的に取得する必要がある。 [OCIドキュメント：コスト分析問合せフィールド] https://docs.oracle.com/ja-jp/iaas/Content/Billing/Concepts/costanalysisoverview.htm#Cost_Analysis_Query_Fields **OCI Cost and Usage Report（コストおよび使用状況レポート）** ガバメントクラウド（OCI）ではOCIの組織管理機能を利用している。OCI Cost and Usage Reportは利用料の確認ができるサービスだが、OCIの仕様のため利用システム（子テナンシ）では使用できない。代わりにOCI Cost Analysisを使用する。 [OCIドキュメント：コスト・レポート統合] https://docs.oracle.com/ja-jp/iaas/Content/General/Concepts/organization_management_overview.htm#organization_management_cost_reporting #### 分析 OCI Cost Analysisにより可視化するコスト状況について以下の1～3の観点で分析し、優先的に対策を実施するサービスを選定する。分析の際は、可視化するコスト状況と合わせて、リソース毎にタグ付けしておくことで、リソースの粒度でコスト分析することが可能となり、詳細を確認できる。なお、費用の超過割合については、参考値となるので適宜調整の上、運用を検討すること。 1. **費用分析** 当月における費用実績のサービス別割合を確認し、上位3位のOCIサービスの特定する。 2. **異常値分析** サービス単位に、直近3か月平均と当月の費用を比較し、平均月より10%以上費用が超過しているOCIサービスの特定する。なお、特定するOCIサービスは費用への影響度を鑑みて判断する。 3. **傾向分析** 6か月前のコストと比較して、30%以上増加しているOCIサービスの特定する。毎月5%程度漸増している場合を想定している。なお、特定するOCIサービスは費用への影響度を鑑みて判断する。 #### コストの最適化分析フェーズで対象となったOCIサービスを「表01：コスト最適化の対応」の「サービス名」と照らし合わせてコストを最適化する。 - 「確認箇所」列および「コスト最適化の基準」列の内容を確認して、該当する基準を選定し、「コスト最適化の対応」列の内容に従い、コストを最適化する。 - 「サービス名」列に記載されているサービスはR1、R2で利用を想定する代表的なサービスを対象としており、コスト最適化観点の主要な観点を記載している。 - 「確認箇所」列に記載されている「OCI Console」は、「サービス名」列に記載されたサービスのコンソールを対象としている。 - 今後追加されるコスト最適化観点や記載外のOCIサービスは、OCIが公開するベストプラクティスを参照の上、コストを最適化する。 - クラウド・アドバイザ機能によって、コスト削減ための推奨事項を確認できる。 - コストの最適化における効果測定は、次月の可視化フェーズで実施する。 **表01：コスト最適化の対応（一例）** | # | サービス種別 | サービス名 | 確認箇所 | コスト最適化の基準 | コスト最適化の対応 | 効果 | | --- | --- | --- | --- | --- | --- | --- | | 1 | Web/AP/APIサーバ | Compute | OCI Console
Cloud Advisor
Monitoring | CPU/メモリの使用率が低い | シェイプもしくはCPU/メモリの変更 | ○ | | 2 | Web/AP/APIサーバ | Compute | OCI Console
Cloud Advisor
Monitoring |常時接続ではなく、使用率が低い | バースト可能なインスタンスへの変更を検討 | ○ | | 3 | Web/AP/APIサーバ | Compute | OCI Console
Cloud Advisor
Monitoring | インスタンスがアイドル状態である、検証環境のインスタンスを
24時間364日稼働させている | 利用していないアイドル状態のインスタンス停止、インスタンスの
実行時間見直し（停止運用） | ○ | | 4 | Web/AP/APIサーバ | Compute | - | 使用しなくなった | インスタンスを削除 | ○ | | 5 | Web/AP/APIサーバ | Block Volume | OCI Console
Cloud Advisor
Monitoring | アタッチされていないBoot Volume | Boot Volumeを削除 | ○ | | 6 | Web/AP/APIサーバ | Block Volume | OCI Console
Cloud Advisor
Monitoring | アタッチされていないBlock Volume | Block Volumeを削除 | ○ | | 7 | Web/AP/APIサーバ | Flexible Load Balancer | OCI Console
Monitoring | 負荷が低い | 最大と最小を適切に設定する | ○ | | 8 | DBサーバ | Autonomous Database
Base Database | OCI Console
Cloud Advisor
Monitoring | 使用しているより多くのCPUでプロビジョニングされている | データベースに割り当てるCPUの数を減らす（*） | ◎ | | 9 | ファイルサーバ | File Storage | OCI Console
Monitoring | 必要以上にストレージを使用している | 不要なデータを削除する。
必要以上にバックアップを取得している場合は見直す | ○ | | 10 | ファイルサーバ | Object Storage | OOCI Console
Cloud Advisor
Monitoring | Object Storage データを頻度の低いアクセス層に移動する
ように設定していない | ライフサイクル・ポリシー・ルールを定義し頻度の低いアクセス層に
自動的に移動するように設定 | ○ | （*）Base DatabaseでOCPU数の変更、もしくはAutonomous DatabaseでECPU数の変更を行うと、同時にメモリサイズとネットワーク帯域も変更される。そのため、事前にメモリサイズとネットワーク帯域が変更されても問題ないことを確認すること。 [OCIドキュメント：Oracle Cloud Infrastructureのベスト・プラクティスのフレームワーク] https://docs.oracle.com/ja/solutions/oci-best-practices/track-and-manage-usage-and-cost1.html [OCIドキュメント：コスト管理の推奨事項（クラウド・アドバイザ）] https://docs.oracle.com/ja-jp/iaas/Content/CloudAdvisor/Concepts/recommendations-costmanagement.htm ## 改訂履歴 | 改訂年月日 | 改訂理由 | | ---------- | -------- | | 2023年09月22日 | 新規作成 | | 2023年11月27日 | 「定常的なコスト管理運用フロー」で参照先ドキュメントの記述修正 | | 2024年03月01日 | 用語の揺らぎを修正 | | 2024年05月10日 | 表01に注釈を追記 | | 2024年06月14日 | コスト分析での利用料について「時間単位」での取得方法、
Cost and Usage Reportについて補足を記述追加
コストの最適化についてわかりにくい表現箇所を、表01および本文修正 | | 2024年07月19日 | 表01「確認箇所」列の内容変更：「OCI Console」→具体的な確認サービス名に変更
全体的な文章見直し |

クラウド利用料の予実管理と最適化(OCI編)